桜草年表　　　　

作成者　佐藤良徳

西暦 和暦 文　　　　献　　　　等 著　　　者 地区等 内　　　　　容　　　　　等
1681 天和1 「花壇綱目」 水野元勝 【栽培】 桜草の栽培方法
1694 元禄7 「花譜」 貝原益軒 【栽培】 桜草の栽培方法
1695 元禄8 「頭書増補訓蒙図彙」 中村惕齋 　 桜草の特徴が記載されている
1695 元禄8 「花壇地錦抄」 伊藤伊兵衛 【栽培】 紫色と白色の色変わり品種を記載
1704-　     1715 宝永－　 正徳 　 　 【栽培】 ＊江戸での園芸がめざましく発展
1716-　     1735 享保年間 「桜草作伝法」 　 【栽培】 ＊桜草の栽培がさかんになる。熱心な人たちは荒川の原野に出向いて、変わり花を訪ねて歩き回る。
1778 安水7 「嬉遊笑覧」 　 下谷 さくら草、形のめづらしきがはやりて、権家の贈り物とす。数百種に及ぶ、これは下谷和泉橋通りに、谷七右衛門という大番与力あり、その人の老母花を植え作ることを好み、桜草を多く植え作れり
1789－     1801 寛政年間 　 　 　 ＊飛鳥山に海老屋、扇屋などの料亭ができ、江戸有数の名勝地となる。
1804 文化1 「桜草作伝法」 　 【栽培】 ＊桜草愛好会「下谷連」が品評会を始める。
1812 文化9 「桜草花品全」 洞水 【栽培】 桜草８８品種の写生画
1818- 文政年間 「さくらそう作伝法」 　 戸田 いつの頃よりか武蔵野の地に生じそめしにて、戸田川の野原よりして川下のつづき野原茅野に、いつ頃よりして生じ、今に至り沢山に生るや。人々桜草を翫ぶ事は、享保の頃より見出し翫び候事にして、追々江戸へ取出し詠めし事と思われ候。好事の輩は遠路をいとわず野原に足をはこび、中には変り色花もあれかしとたづねしに、ー通りの花のみにて、まれに白花を得しと
1818 文化15 「草木育種」 岩崎常正、阿部喜任 【栽培】 ＊サクラソウの栽培法が記述されている。
1822 文政7 「武江産物誌」 岩崎常正 戸田・野新田・尾久 桜草・紫雲英(れんげそう) 戸田原 野新田 尾久の原（れんげそう すみれあり）
1823 文政6 　 　 　 ＊シーボルト来日。栽培のサクラソウをヨーロッパに紹介。これにちなみのちにサクラソウの学名はプリムラ・シーボルデイとなる。
1827 文政10 「江戸名所花暦」 岡山鳥 野新田 尾久より一里程王子のかたへ行て、野新田の渡といえるところに、俗よんで野新田の原というにあり。花の頃は、この原一面朱に染む如くにして、朝日の水に映ずるがごとし。また此の川に登り来る白魚をとるに、船にて網を曳き、あるいは、岸通りにてすくい網をもって、人々きそいてこれをすなとる。桜草の赤きに白魚を添えて、紅白の土産なりと、遊客いと興じて携かえるなり。
1827 文政10 「江戸名所花暦」 岡山鳥 巣鴨 巣鴨 庚申塚左右、この辺植木屋、また農家にても作れるなり。こは生業となすゆえなり。
1827 文政10 「江戸名所花暦」 岡山鳥 尾久 王子村と千住の間、今は尾久の原になし。
1828 文政11 「新編武蔵風土記稿」 　 野新田 鹿浜新田 小名野新田 この地は萱野にて桜草多く生ぜり。
    「東都遊覧 四時早鑑」 　 染井 さくらそう 染井植木屋、農家王子へん一円
1830-       1844 天保年間 「江戸勝景 花暦道之栞」 為永春水撰 尾久 上尾久村、下尾久村。この辺に多くありてかの荒川の岸に近き原におびただしき桜草なり。
1832-　     1833 天保3-4 「東都花暦名所案内」 　 千住・野新田・戸田 【桜草】千住の野、野新田、戸田原
1833 天保4 「花みのしおり」 忍川舎 千住・野新田・戸田 【桜草】 立春より８０日頃が見頃。千住の野、野新田、戸田河原、
1833 天保4 「花みのしおり」 忍川舎 【栽培】染井・下谷 下谷茶園、染井植木屋、かわり花数百種あり。
1835 天保6 「みやひのしほ理」 須原屋茂兵衛・北原順四郎 千住・野新田・戸田・尾久 【三月 桜草】 戸田河原、野新田、尾久、千住の野。
1835 天保6 「みやびのしほり」 　 【栽培】染井 染井植木屋（立春より七十五日位）
1835 天保6 「みやひのしほ理」 須原屋茂兵衛・北原順四郎 【栽培】染井・巣鴨・本所 本所清水橋向新久、染井植木屋、巣鴨植木屋
1838 天保9 「東都歳時記」 　 【栽培】染井 【桜草（立春より七十五日頃）】染井植木屋。巣鴨植木屋。その余所々（近来紅白数品あり、盆に移して軒下に商ふ、価もっとも貴し）
1838 天保9 「東都歳時記」 　 戸田・千住 桜草（立春より七十五日頃）戸田の原（戸田の川上に添いたる原）。千住。
1846 弘化3 「江都近郊名勝一覧」 　 戸田 戸田川渡し 中山道板橋と浦和との間にあり。此辺桜草の名所にして、春時花開く時は、宛然(あたかも)毛氈を敷たるが如し、都下の遊人群集してこれを賞す。
1853- 安政年間 「桜草花形帳」 集花低吉左右衛門 【栽培】 桜草４０品種の記載
1859 安政6 「武江遊観志略」 　 戸田・野新田 桜草、戸田の原、野新田、
1859 安政6 「武江遊観志略」 　 【栽培】染井・巣鴨 巣鴨、染井植木や
1860 万延1 「桜草名寄控」 　 【栽培】 ＊桜草２８６品種を記載。
  明治初年 「三十六花撰」 喜斎立祥 戸田 東京の花名所を描いた刷り物の一枚として「戸田原さくらそう」が出される。
1872 明治5 　 　 　 ＊赤羽火薬庫できる。
1873 明治6 「日本産物志　（武蔵部）」 　 戸田・志村 志村・戸田辺産の植物のリストに「サクラソウ」（尾久ノ原のリストには記載なし）
1875 明治8 　 　 　 ＊王子に抄紙会社できる。
1883 明治16 　 　 　 ＊日本鉄道上野－高崎間開通。王子駅・赤羽駅開業
1885 明治18 　 　 　 ＊日本鉄道品川－新宿－赤羽開通
1886 明治19 　 　 　 ＊南足立郡江北村の荒川堤改修にあわせて、堤上に様々な品種のサトザクラを植える。
1887 明治20 　 　 　 ＊工兵隊、千代田区から赤羽台に移転。赤羽駅の乗降客が飛躍的に増加。
1888 明治21 「桜草銘鑑」 伊藤重兵衛 【栽培】 ＊染井の植木屋伊藤重兵衛が、桜草の品種目録を刊行
1891 明治24 　 　 　 ＊24年陸軍被服本廠、28年王子火薬製造所、３８年十条兵器製造所、39年陸軍兵器支所ができ、王子・赤羽一帯は軍需工場画集中する。
1891 明治24 　 　 　 ＊東北線上野－青森全通
1892 明治25 日本園芸会雑誌35 　 【栽培】 ＊上野公園で第１回園芸品評会開催。桜草も出品される。
1892 明治25 国民新聞 　 【栽培】大久保・染井・駒込・入谷 大久保、染井、駒込、及び入谷辺においては、昨今さくら草の好季節に向かいたれば、来月一日の日曜日には杖を曳く者多からん。
1899 明治32 「桜草銘鑑拾遺」 伊藤重兵衛 【栽培】 ＊染井の植木屋伊藤重兵衛が、桜草の品種目録を刊行
1903-       1912 明治36-45頃 　 　 　 ＊南足立郡江北村荒川堤の桜が立派な木に育ち、毎年多くの花見の客でにぎわうようになった。荒川堤の花見とあわせて、浮間の桜草狩りに行く人も多くなった。
1903 明治36 博物学雑誌．4(37）「さくらそうノ説」 寺崎留吉 戸田 サクラソウの産地として戸田原を挙げ、”東京附近ニテハ戸田原ヲ以テ著名トス。都ヲ距ル三里、荒川ノ河畔ニアリ他ノ珍シキ植物卜交り好採集地トシテ屈指セラル′と記す。
1904-       1905 明治37・38 科学画報1.1（1924)「桜草のふるさと」 武田久吉 戸田・浮間 明治３７，８年頃市内の中等学校教員中、生徒をこの地に引率して採集などさせることも行われ始めた・・一般に野外散策等も漸く盛んになって戸田や浮間もなかなかの人出となり、やがては自然を楽しむというよりも摘み草目的の遠足が多く企てられ・・
1905 明治38 植物学雑誌19（220）「戸田ノ原ヲ訪フ」 中井猛之進 戸田 明治38年４月30日の植物観察。サクラソウ多産。ノウルシ・キツネノボタン・ノカラマツ・チョウジソウ・カサスゲ・レンリソウ・マダケ・ゴマキ・アマドコロなど記録
1906 明治39 読売新聞　明治39.5.6 中谷無涯 浮間 「浮間の桜草狩り」の紀行文が掲載される。｢かれんな紅花を付けたシワ多き葉の小草は満地にモウセンを延べたようにあるので、足の踏み所も覚えずアアと感嘆して、みごとみごと、きれいきれいとしばらくはあっけにとられて立ち尽くした。･･カヤの若芽の桜草とスミレと一面に生えている隣りのカヤ野には、男女二十人ほどがケットを敷いて花束を作るやら掘るやら騒いでいる。
1906 明治39 読売新聞　明治39.5.6 中谷無涯 浮間 「浮間の桜草狩り」の紀行文に「『こういう所は保護しておきたい。』小金ケ原の桜草は全滅したそうだ。ここなども年々、世知がらい人の手に鋤が入り、鍬が入ってだんだんにせばめられて行くだろうし、年々、都の人が来て採ったり掘ったりして次第に絶えるだろうが、どうか相応な保護をして、人工に汚れないこの野生のかれんな草を絶やしたくないと思う。｣
1907 明治40 「桜草銘鑑」 伊藤重兵衛 【栽培】 ＊染井の植木屋伊藤重兵衛が、桜草の品種目録を刊行。３０６品種記載。
1907 明治40 　 　 　 ＊荒川流域に大洪水
1910 明治43 太陽16（８）「桜草」 三好　学 戸田・野新田 戸田原、野新田などのサクラソウが乱獲されることにふれる。
1910 明治43 博物之友．10（７１）「田島ケ原の桜草」 　 戸田 戸田原の桜草は桜の去った後を受けて満都の子女の御花見の名所になった。『耕地の面積の増すのと彼等の人の手に掘られて有名な戸田っ原も見る影も無くならふとして居る。』
1910 明治43 　 　 　 ＊荒川流域に大洪水
1911 明治44 　 　 　 ＊王子電気軌道飛鳥山－大塚開通。
1912 大正1 　 　 　 ＊鬼怒川水力電気東京変電所できる。
1913 大正2 　 　 　 ＊王子電気軌道王子－三ノ輪開通。
1913 大正2 　 　 　 ＊荒川放水路工事掘削開始
1914 大正3 　 　 　 ＊荒川流域に洪水
1914 大正3 　 　 　 ＊猪苗代水力電気東京変電所できる。
1915 大正4 　 　 　 ＊王子電気軌道三ノ輪－大塚全通。
1916 大正5 「南足立郡誌」 　 野新田 江北村 桜草は字新田の原野に生ずる花にしてこれまた都人の愛翫する所なり。
1916 大正5 　 　 　 ＊岩淵水門起工
1916 大正5 「郊外探勝その日がへり」 落合昌太郎 浮間・野新田・柏木新田 桜草といえば誰しも浮間が原ということになっている。桜草といえば誰しも浮間が原ということになっている。柏木新田や野新田には桜草が愛らしく咲き乱れている。（略）下村の渡しを越えて赤羽にも出られるこの芦の原には一面に桜草が咲いている。
1916 大正5 「東京の近郊」 田山花袋 浮間 浮間ケ原は桜草の名所だ。
1917 大正6 「桜草とプリムラ」 松野孝雄 尾久 名所図絵にある尾久の原まで行かないでも北豊島郡下尾久村という三河島停車場の北二三丁で鬼怒川水力電気会社の変圧所の前の原もかなりの桜草があります。
1917 大正6 　 　 　 ＊荒川流域に洪水
1917 大正6 「桜草とプリムラ」 松野孝雄 浮間 ことに浮間の原は名高く、荒川堤の桜の盛んな頃はこの花を摘みに行く人々が多いのです。（略）
1918 大正7 東京朝日新聞　大正7.4.16 　 浮間 東京名所の一つに数えられている浮間ケ原の桜草保護については、去年の今頃も本欄に記したが、さすがに土地の人もその必要を感じたと見え、『今年は制札を立てて、根から掘り出すのを禁じた。』しかし摘むのは禁じていないから、心なき遊覧者がむしるはむしるは。先を争って両手に束を造る。
1918 大正7 「趣味の野草」 前田曙山 戸田・志村・浮間 東京の北郊なる荒川の流域、戸田、志村、浮間の附近は、櫻草の簇生(ぞくせい)する所
1918 大正7 「東京近郊一日の行楽」 田山花袋 浮間 赤羽には、見るものがもう一つある。それは桜草である。浮間ケ原の桜草である。
1918 大正7 「東京府北豊島郡誌」 北豊島郡農会　 志村 戸田の川縁より志村の後蓮沼村にかけて、春は一円に桜草生じかの浮間ケ原共に近郊の名所に数えらる
1919 大正8 　 　 　 ＊荒川堤の桜が天然記念物に指定される
1919 大正8 「近郊探勝日帰りの旅」 松川二郎 戸田 その近所の戸田ケ原も、やはり一面の桜草で埋まっている。その辺までは人はあまり出かけないから、静かでのんびりしていて好い。
1919 大正8 「近郊探勝日帰りの旅」 松川二郎 浮間 浮間ケ原はしかし、『人が多すぎる。』むしろ、そこから十町程川上の横曾根原へ行くに如かずである。そこにも桜草はたくさんある。かつ花がもっと大きい。
1919 大正8 「近郊探勝日帰りの旅」 松川二郎 浮間 浮間ケ原は、全く見事だ。あたかも花毛氈でも敷いたように一面の桜草である。そして花は、自由に摘み取ることを許されている。
1919 大正8 東洋学芸雑誌455「桜草原野の保存の必要」 三好学 戸田・浮間 明治二十年の年頃までは、戸田の原、浮間の原には桜草多く発生し、美観を呈するが、それより二十年も後なる『明治四十年頃になりては、これらの原野は著しく旧時の趣を失い、桜草少くなり、浮間の原の如きは変化ことさら甚だしく、ほとんど桜草を見る能わざるに至れり。』
1920 大正9 「武蔵野の草と人」 太田三郎 浮間 【浮間の桜草狩り】の文中に　もっとも、もうそこの桜草もだんだんに取り尽くされていって、今ではかなりに貧弱なものになったし・・それに摘み草の人をあいてとする葦簀張の小屋が並んだり・・して大分趣の騒々しいものになった
1920 大正9 「史蹟名勝天然記念物調査報告（１２）」 三好　学 戸田 戸田原のサクラソウ自生地にもふれ．明治20年頃までは多少旧態を保っていたが．其の後土地の変化、遊覧者の濫採．商売人の過度の採集のため、今日同地方のサクラソウはほとんど採りつくされたと記す。
1920 大正9 遺伝11巻４号（1957)「おもしろい生物の生育地を訪ねる４－サクラソウ」 本田正次 浮間・志村 東大にある数多い標本について当たってみても『浮間ケ原で採集されたものは大正９(1920)年が最後』であり、『志村ノ原の標本は大正14(1925)年に私自身で採集したものが最後』となっている。
1920 大正9 「史蹟名勝天然記念物調査報告（１２）」 三好学 浮間・戸田・田島 浮間原、戸田原等の荒川沿岸の原野は桜草の名所として知られ・・是等の原野は明治二十年頃までは多少旧態を保てるが、其土地の変化、遊覧者の濫採、商売人の過度の採集等の為めに今日にては同地方の桜草は殆採り尽さるるに至れり、幸に荒川の上流沿岸地方には今日尚桜草を産せる処あるも多くは交通不便のため観覧に適せず、此点よりすれば前記の土合村内の桜草産地は浦和町より僅に一里に過ぎず且車馬の便あるを以て名勝としても保存するに適当なる土地と云ふべし。
1920 大正9 「郊外めぐり一日の旅」 片山青流 野新田・柏木新田 この辺は桜草も沢山咲き乱れているから摘草にも好適の場所である。特に柏木新田や野新田がよい。　＊＊柏木新田の現在地は不明。
1920 大正9 　 　 田島 ＊田島ケ原サクラソウ自生地、天然記念物に指定される。
1920 大正9 「郊外めぐり一日の旅」 片山青流　 横曽根原＝浮間 サクラソウといえば横曽根原を連想するほどに有名
1921 大正10 「武蔵野巡礼」 白石実三 野新田 ちょうど荒川の花の頃 野新田あたりに桜草を摘みに行った人々は・・
1921 大正10 「最新実査 東京から」 永渓早陽 浮間 『浮間の桜草は近年全く滅んだ。』赤塚の北部には、さほど遠くない所に荒川が流れていて、桜草もある。
1921 大正10 「最新実査 東京から」 永渓早陽 浮間 五六年前までは春のこの原は非常によかった。桜草も相当に生えていて、紅く見えるその間に、白と紫の絞りのスミレや、黄色い花を開くヒキノカサ等が混じっていて、何ともいえなかった。『ところが昨年ひさしぶりで行って見たところが、ただの所には殆んど花を見ず、囲われた三四ケ所にわずかに花を見るくらいとなっていた。』
1922 大正11 「東京近郊めぐり」 河井酔茗 浮間 浮間ケ原は桜草の野生地で、四五月頃には、その桜草のような可憐な少女たちが摘み草に来る。桜草はここばかりでなく、上流にもあるが市中に近いので人が出るのだ。全体桜草がこんなに多く野生している地は、日本でも荒川河岸の他にほとんどないのだから相当の保護を加えてよい。『茅萱や小笹の根にからんで掘りにくい桜草の根もかなり堀って行かれたようだ。』
1922 大正11 「近郊探勝其の日帰りと一夜泊り」 池田紫雲 浮間・横曽根・戸田 浮間、横曾根、戸田の原、名も優しき桜草。近頃大分取りつくされたとは言うものの、まだまだこの三ケ所で遊ぶ気なら、春一日の行楽は充分である。
1922 大正11 「近郊探勝其の日帰りと一夜泊り」 池田紫雲 野新田・柏木新田 子供連れなら、柏木新田、野新田の桜草、「坊ちゃん嬢ちゃん、どうぞ其の柔らかい優しい手で摘んで頂戴な」とばかり愛らしく咲き乱れている。
1922 大正11 　 　 　 ＊浮間の築堤工事開始
1922 大正11 「東京近郊写真の一日」 松川二郎 浮間・横曽根・戸田 『浮間ケ原は、しかし人が多すぎる。』今はなお十町ほど川につれて上って、横曾根原か戸田ケ原へ行かねばいけない。そこは桜草が浮間より多くて、花がもっと大きい。境が静かでのんびりしている。
1922 大正11 「武蔵野めぐり」 横山信 浮間 浮間の原は桜草の産地として古くから聞こえている。・・しかしそれも既に過去のこととなった。その桜草はもう取り尽くされ根絶されて今では見る影もなくなった。
1922 大正11 「カメラを携へて東京近郊へ」 奥川夢郎 浮間・戸田 桜の花の八重が散りかけた頃、この浮間の原は、桜草を採集する人々によって賑わうけれども、『ここはもう俗であるし、桜草も少ない。』それよりかも戸田ケ原の方がよい。
1923 大正12 　 　 　 ＊関東大震災　煉瓦建造物の崩壊が多く、煉瓦の重要が急減する。都心部で被災した工場や民家の移転により郊外の都市化がこの後急速に進む。
1923 大正12 科学画報，1(1) 武田久吉 戸田・浮間 『近年に至っては戸田や浮間の桜草も概ね採り尽くされ踏み躙られて到底昔日の観はない』
1924 大正13 　 　 　 ＊岩淵水門竣工、荒川放水路全線に通水
1925 大正14 「東京郊外 楽しい一日二日の旅」 高橋壽恵 浮間・横曽根・戸田・野新田・柏木新田 浮間から少し西、戸田橋の彼方の戸田ケ原、川上約十町の横曾根原も桜草の名所である。・・（荒川堤）附近の野新田・柏木新田には桜草がある。
1925 大正14 「東京郊外 楽しい一日二日の旅」 高橋壽恵 浮間 桜草で聞えた広い浮間の原。花の盛りは、満目ただ桜花の毛氈毛を敷いたよう。実に北郊特有の一奇観である。今天然記念物として保存を計らるるに至ったのも故あることであろう。
1926頃 昭和初期 「野草の自然史」 長田武正 浮間 『浮間の桜草は明治末から大正にかけて全滅。昭和初期には数キロ上流の志村ケ原まで出かけねばならななかった。』ここでも桜草はほんのひとにぎり、でもノウルシ・ヒキノカサ・シムラニンジン・エキサイゼリ・ヒメアマナと珍しい植物が目白おしで、桜草原野という特異な植物景観を作っていた
1926頃 昭和初期 「わが街いまむかし」 板橋区 志村 『志村の原（いまの舟渡付近）のサクラソウは、確かに昭和のはじめまで残っていた。』秋が過ぎ、初冬になるころ、舟渡付近の農家の入々がアシやカヤを刈り取ったそのあとに、翌春になるとサクラソウが毎年かわいらしい花を咲かせてくれた。
1926 大正15 　 　 　 ＊浮間地区は荒川放水路工事により、埼玉県北足立郡横曽根村から東京府北豊島郡岩淵町に移管される。
1927 昭和2 「桜草の栽培」 松野孝雄 浮間・戸田 『浮間・戸田は現在では有象無象が根こぞきむしり取った野で、あの広い原にほとんど影を絶ったといってよい。』
1927 昭和2 「桜草の栽培」 松野孝雄 野新田 野新田の渡し付近の葦間には今でも多少発見することができるが、そのうちには『このあたりの土は皆煉瓦に焼かれて跡形も無くなることであろう。』
1928 昭和3 　 　 　 ＊赤羽駅、現在地に移転
1930 昭和5 「東京近郊日がへりの行楽」 松川二郎 芝地 【芝地】　荒川下流左岸の原っぱで、交通の関係から従来おまり世上に知られなかったが、桜草の自生地としては田島ケ原に次ぐものであろう。それに名勝地として指定されていないだけに多少おみやげに花を持って帰ることも自由で、かえって散策者にはよろこばれている。
1930 昭和5 「岩渕町郷土誌」 　 赤間原、戸田、早瀬、芝地、田島原 赤間原（浮間右岸）戸田、早瀬、芝地、田島原
1930 昭和5 「東京近郊日がへりの行楽」 松川二郎 田島 【田島ケ原】　荒川左岸の原地で、日本一の桜草自生地として「天然記念物」の指定をうけている名所、区域は四町歩ばかりの間。従来あまり人に知られなかったおかげで濫採の厄を免かれ、地を賑ふて密生しているのみならず、野生としては珍らしく多数の変種に富み、
1930 昭和5 「岩渕町郷土誌」 　 浮間 遊覧者の増加と商売人の過度の採集等によって、明治の中葉までは旧観を維持していたのが花の影は年ごとに減少して行って、今や江戸時代の名所であった尾久の原の轍を踏んで『絶滅に瀕している。』
1930 昭和5 　 　 　 ＊荒川放水路完成
1930 昭和5 「大東京の史跡と名所」 佐藤太平 浮間 ここが即ち櫻草で有名な浮間が原で、飛鳥山や荒川堤の櫻の盛りを過ぎた頃、この原一面に紅白桜草が緑野に浮出ているのでここに来て、花を摘む者がすこぶる多い。
1930 昭和5 「東京近郊日がへりの行楽」 松川二郎 浮間 【浮間ケ原】・・荒川左岸の広々とした原っぱで桜草の自生地として知られている。乱採の結果一時花の数が減って衰滅を憂いさせたが、『自制と保護の結果近年またようやく増加するに至った。』
1930 昭和5 「大東京の史蹟と名所」 佐藤太平 戸田・志村 戸田の川縁から志村の後蓮沼村にかけて、春は一円に紅白の桜草が自然のままに咲き競うている。浮間の原と共に近郊の名所である。されば花時には、花を愛するもの、また渡世に花を売る者、遠近より集い来て、思うがままに採草していくのである。
1932 昭和7 「大東京遊覧地誌」 白石實三 浮間 摘草は、赤羽の先の浮間ケ原。あそこの『桜草はほろびた。』
1932 昭和7 　 　 　 ＊東京市の市域が拡張し３５区となる。北豊島郡岩淵町、王子町は王子区に、南足立郡は足立区となる。
1934 昭和9 　 　 錦ケ原 ＊錦ケ原サクラソウ自生地、国の天然記念物に指定される。
1935 昭和10 「東京の植物を語る」 伊藤隼 田島 【田島原の桜草】　更に荒川上流の田島原（一名土合、秋ケ瀬）の桜草は、昭和２年の４月に内務省から天然記念物に指定されて、コンクリート製の柵を取り回らしてある。
1935 昭和10 「東京の植物を語る」 伊藤隼 錦ケ原 【錦ケ原の桜草】　現在ではその上流の『戸田の原には殆どなくなった。』然るに昭和八年には更にその上流の埼玉県馬宮即ち錦ケ原に桜草が多いことが分り、・・
1935 昭和10 「東京の植物を語る」 伊藤隼 浮間 【浮間ケ原の桜草】　『明治二十年頃までは戸田の原や浮間ケ原に桜草が多かったそうだが、明治四十年頃には甚しくその数を減じ、私が大正十一年に行った頃には足の疲れる程捜し回って僅かに二・三株を得た位であった。更に昭和七年に訪れた時には一茎も得られなかった。』
1935 昭和10 「東京の植物を語る」 伊藤隼 上内間木 【上内間木村の桜草】　秋ケ瀬橋を渡って上内間木村の大野兵衛氏所有地を訪ねると、そこには三反歩許りの地面に桜草が一杯生えていた。
1935 昭和10 「東京の植物を語る」 伊藤隼 芝地 【芝地の桜草】　その上流すなわち川越から大宮に通ずる街道が、荒川を横切る辺りの芝地という所にも桜草の自生地がある。
1936 昭和11 野草２巻５号「荒川堤」 吉村謙三 浮間 【浮間原】　その（ノウルシの原）中には、『所々、ほんの所々に、それもわずかに昔の名残をとどめるに過ぎないサクラソウが芽を出している。』
1937 昭和12 　 　 戸田 ＊戸田ボートコース竣工。戸田で最も桜草の多産地「上戸田ツ原」がこれによって破壊される。
1938 昭和13 　 　 浮間 浮間原を天然記念物にするための陳情が行われた。しかしね荒廃がひどいため見送られる。
1941 昭和16 「武蔵野」 田村剛・本田正次 戸田・浮間 戸田の原や、その下に続く浮間ケ原などは明治の中頃まで盛んに都の士女の郊外散策の好適地として、一家団欒の行楽地として利用され、『大正の中頃までその名残を留めていたが、現在は戸田も浮間も両方とも大東京市の工場地として全くその面目を一新』し、昔華やかなりしサクラソウの霊も定めし地下にあって、黒煙を吐く煙突を眺め、間断なき機械の騒音を聞いては今昔の感に堪えないでいることであろう。
1941 昭和16 「武蔵野」 田村剛・本田正次 田島 浦和から志木に通ずる道路の南側にあたる田島ケ原で、年々サクラソウの自生地が破壊されて行くのでその保存のため大正９年７月、内務省から天然記念物に指定されて厳重にコンクリートの柵で取り回らしてある。その上流にある福岡近くの錦ケ原、またその少し上流にある芝地など・・
1943頃 昭和18頃 　 　 錦ケ原 ＊錦ケ原サクラソウ自生地、食糧増産のため開墾される。戦後までに全域が農耕地となり、自生地は消滅。
1952 昭和27 　 　 他事 ＊田島ケ原サクラソウ自生地、国の特別天然記念物に指定される。
1953 昭和28 　 　 　 埼玉郷土の花をサクラソウに決定。
1953 昭和28 　 　 　 さくらそう会再興
1962 昭和37 　 　 浮間 ＊浮間桜草保存会結成
1972 昭和47 　 　 　 文化庁・埼玉県によるサクラソウ緊急調査実施。荒川のサクラソウ自生地の実態が明らかになる。
1976 昭和51 　 　 　 戸田市の花がサクラソウに決定。
1990 平成2 　 　 　 桶川市川田谷の桜草自生地のトラスト運動開始